「…以上がフェザーンから運んで来た物資です。間違いはございませんね?」
「うむ、ご苦労だった。これからも頼むよ」
「ありがとうございます」
カオリと別れて以降何度かモンスターに襲われたものの、ユウイチ達はフェザーンから運んで来た物資を、無事ランスの業者へと届けた。
「これで一仕事終わりと。後はカオリ達を待つだけか…」
ランスまでの荷物運びを無事終えたユウイチの脳裏に浮かんだのは、シオリとカオリの安否だった。拉致されたシオリは無事だろうか、そしてそのシオリを追ったカオリは野盗の返り討ちに遭っていないだろうか…?
一仕事終えたとはいえ、ユウイチに心の平穏は訪れなかった。
「ユウイチ?カオリとシオリちゃんのことを考えてるの?」
「ん?ああ。よく分かったな」
「だってユウイチ、困ったことあるとすぐ顔に出るから。
大丈夫だよ。あの二人はきっとここに来るよ…」
「ああ、そうだな…」
ナユキに促され、ユウイチは少し気分が和らいだ。
本当はこの足でカオリの後を追いたい気分だ。しかし後を追った所で必ず無事が確認出来る訳じゃないし、結局の所ランスで二人を待ち続けるのが一番無難なのだとユウイチは思ったのだった。
「それにしても寒いな…」
ランスは亜寒帯に属し、特にこれといった寒冷地対策を取っていなかったユウイチは、肌寒さを否応無く感じた。
「そうだね。ねえユウイチ。酒場で何か飲んで身体温めない?」
「ああ、そうしよう」
身体を温めるだけじゃなく、酒場ならカオリ達と待つのにも最適な場所だと思い、ユウイチはナユキと共に酒場へと向かって行った。
「ん?あの人は…」
酒場へ赴くと、ユウイチの目先には見覚えのある顔があった。声をかける為、ユウイチはその人物へと近付いていった。
「お久し振りです、コーネフ会長」
「おお、ユウイチじゃないか。ランスにいるってことは何かしらの成果はあったのか?」
その人物は、ユウイチに新しい商会を任せ、その最初の仕事まで与えたコーネフだった。
「ええ。フェザーンのとある運輸業者の協力を得る事に成功し、その業者に頼まれてランスまで荷物を運んで来ました。それで今仕事を終えたばかりで、一休みしに酒場へ来た所です」
「そうか、よくやった。君なら必ず何かしらの結果を出すと思っていたよ。成功報酬はネオ・マリーンドルフ商会名義の口座に振り込んでおこう」
「ありがとうございます。ところで会長。会長はどうしてランスなんかに?」
「いや、キドラントの甥から数日前薔薇の騎士との契約に成功したという手紙が届いてな。その話を聞いて彼等との共同運営で北方の運輸ルートを新たに築き上げようとキドラントに向かうことを決め、その途中一休みに立ち寄ったんだ」
「手並みの早さは流石という感じですね」
「伊達に会長はやっておらんよ。ところでユウイチ。そちらのお嬢さんは誰だい?」
コーネフはユウイチの側にいたナユキが気になり、その素性を訊ねた。
「ええ。フェザーンにいる親戚の子でして、ランスまでの仕事を手伝ってもらったんです」
「ユウイチの従姉妹のナユキっていいます。初めまして、コーネフ会長」
ユウイチが自分の素性をコーネフに話した後、ナユキは改めてコーネフに挨拶をした。
「なかなか可愛いお嬢さんだ。ところでユウイチ、君に頼んだ仕事はこれで終わりだ。後は我々コーネフ商会が行う。その代わり君には違う仕事をしてもらいたいと思う」
「えっ、それはどんな仕事です?」
話題を変え、コーネフはユウイチに新たな仕事を依頼した。
コーネフの話はこうだった。北方の運輸ルートの共同運営に関し、コーネフ商会は運輸ルートの護衛任務を全て薔薇の騎士に任せ、商会はその見返りとして護衛任務に必要な物資を全て賄う手筈だという。
「護衛任務に一番必要な物資は武具だ。実はハイネセンには嘗て世界一と言われる工房があり、その工房はマリーンドルフ商会と関係の深い工房でもあった。その工房の利益はマリーンドルフ商会の大きな財源となっていたが、マリーンドルフの没落と工房の親方の死により工房は一気に衰退していった。
そこでだ。君にこの工房の復興を支援してもらいたい。今その工房は親方の子息が細々と経営しているだけだ。それで君に復興の手始めとしてまずハイネセンに戻り、その子息と話を付けてもらいたい」
「えっ、いきなり話を付けて欲しいって言われても、何をどうすれば…」
「なぁに、深く考える必要はない。君のマリーンドルフ家を復興させたいっていう熱意を見せれれば何とかなるものさ」
「熱意か…」
熱意と言われて、ユウイチは改めて自分がどれ程の熱意を持っているか自問した。正直、自分がどれだけマリーンドルフ家を復興させたいという熱意を持っているかは分からない。ただ、アユに元の暮らしをさせて上げたいって言う熱意は確かにあると思った。
「分かりました。その話、謹んでお受け取り致します!」
どこまで自分に出来るかは分からない。けどその仕事がアユに幸福をもたらすものならばならば迷っている暇はない。そう思い、ユウイチは迷うことなくコーネフの依頼を受け取ったのだった。
「そうか。では頼むぞ、熱意の持った若き会長よ」
「はい!」
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SaGa−19「氷湖」
ユーステルムから北に数十キロの地に存在する氷湖。この湖はその名の通り一年中氷に閉ざされた湖であり、夏の期間でさえ完全に氷が溶けることはない。
「う〜さみぃ〜」
ユーステルムでさえ堪え難い寒さであるというのに、更に過酷な氷湖の環境にジュンは終始身震いしていた。
「で、勝負の方法は?」
「焦るな。今から説明する」
身震いするジュンとは違い、勝負の開始を今や今やと待ち続けるユキトに、シェーンコップは大人の余裕とばかりに落ち着いた口調で説明を始めた。
「ルールは至って簡単だ。この氷湖の奥に住まう”氷湖の主”の棲み家に辿り着くまで、向かい来るモンスターをどちらがより倒したかで判定する。倒すモンスターはあくまで立ち向かってくる者のみ。数を稼ぐ為の寄り道などは一切認めん」
「分かった。しかし、その”氷湖の主”は倒す必要はないのか?勝負の内容からいって、それを倒した者が勝者というのも悪くはないと思うんだが?」
「氷湖の主は数人掛かりで追っ払うのがやっとのモンスターだ。それに氷湖の主はその名の通りこの氷湖のリーダー的存在だ。下手に倒しては統率を失った氷湖のモンスターが暴走する可能性がある。
目的はあくまで一時的な撃退であり、殺すことではない。氷湖の主が我々に負けたとあっては氷湖のモンスターもそう人間に手を出さん。逆に我々が負けたとあっては氷湖のモンスターは止まることなく活発に活動をする。故に我々は絶対に負ける訳にはいかんのだ」
「負ける訳にはいかないが、相手を殺す訳にもいかない、か。なかなか難しいな…」
以前裏葉の元で奇妙な動物を殺さずに生け捕りにした経験から、ユキトは相手を殺さずに打ち勝つことの難しさを身を持って知っていた。それも話から聞くに今回は裏葉の奇妙な動物達とは比較にならない程の強敵。そのようなものを相手に負ける気はしないものの、殺さずに打ち勝つ自身はなかった。
「だが、トルネードの二つ名に賭けて、俺は必ずアンタに勝ってみせる!」
しかし、真の強者とは必ず相手を殺す者ではない。状況に応じ自分の力をコントロールし、且つ勝利を掴める者こそ真の強者なのだ。
そう思い、ユキトは高らかとシェーンコップに向かい、みなぎる闘志をぶつけたのだった。
「いい意気込みだ小僧。ではこれより勝負を開始する!」
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「早速お出ましか!」
氷湖の奥へと向かう一行の前に、巨大なタコ方の水棲系モンスターへプトパスの集団が現れた!
「はっ!」
「ザシュザシュザシュ!」
待ってましたとばかりにユキトは誰よりも早く前に出、2、3匹のへプトパスを華麗で鮮やかな三日月刀の舞いで斬り倒した。
「なかなか動きが速いな小僧。だが俺も伊達に薔薇の騎士の隊長を務めている訳ではない!」
「ドカドカドカッ!」
ユキトに負けんばかりとシェーンコップも前に出、同じく2、3匹のへプトパスをツヴァイハンターの勇猛で豪快な剣さばきの元打ち倒した。
三日月刀による華麗で鮮やかな剣さばきのユキトと、ツヴァイハンターによる勇敢で豪快な剣さばきのシェーンコップ。両者のスタイルは対照的であったが、どちらも負けず劣らずの実力派であるのは間違いなかった。
「ひょえ〜二人とも一歩も譲らねえなぁ〜」
自分などよりは遥かに力のある二人の姿に、ジュンは感嘆すると共に武者震いした。
今の自分はまったく及ばないが、いつかこの高みに昇ってみたい!ジュンは実力の違い過ぎる二人の姿に失望感などの負の感情は感じず、憧れや期待感など向上心に値する正の感情しか抱かなかった。
「さぁて、この辺りからは氷も至る所で溶け、魚系モンスターが容赦なく襲って来る。用心することだ」
「ふん。面白い」
「バシャバシャバシャ!」
シェーンコップの忠告を受けたユキトの前に、氷解した湖の湖面から魚系モンスター殺魚が群れを為して姿を現わした!
「ザシュザシュザシュ!」
「ガブッ!」
「くっ!」
何匹かの殺魚は三日月刀で斬り払ったものの、その内の一匹にユキトは足を噛まれた。
「風よ、我に立ち向かう者を切り裂く刃となれ!ウインドダート!!」
しかしユキトは冷静に蒼龍術ウインドダートを唱え、噛み付いて来た殺魚を打ち倒した。
「ほう、剣だけではなく術も使うのか」
「ああ、アンタと違ってな」
「フン」
「ギギャァァ〜!」
そんな時、二人の目の前目掛けて巨大な鳥系モンスターデイトリッパーが襲いかかって来た!
「くっ、この辺りにはこんな大型モンスターも住んでいるのか!?」
突如として襲いかかって来るデイトリッパーにユキトは迎撃体勢を取る間がなく、咄嗟に背を低くして攻撃を回避した。
「くっ、こっちにも襲いかかって来るぞ!」
デイトリッパーはユキト達の後方を歩く他の薔薇の騎士達にも容赦なく襲いかかった。皆一斉に迎撃体勢を取るものの、ツヴァイハンターでは自由に空を飛び回るものには思うように対抗出来なかった。
「俺はお前のように術を使うことは出来ん。だがな…」
「ギギャァァ〜!」
「ヒュッ!」
旋回し再び向かって来るデイトリッパー目掛けて、シェーンコップは軽く跳躍した。
「ヨーヨー!!」
そして手に出した手斧で、斧技ヨーヨーを食らわした!
「ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!」
「グギャァァァ〜!」
一度斬り払っては手元に戻り、そして再び敵に向かいまた手元に戻る。休む間もなく連続して敵に斧技トマホークをぶつける様が、さながらヨーヨーを回している様な事から”ヨーヨー”と呼ばれるこの技。その連続攻撃にデイトリッパーは身体の隅々を斬り付けられ、そして絶命した。
「……」
一連の動作は僅か十数秒の間に行われ、その鮮やかさにユキトは言葉を失った。
「しかし時にはこうやって斧を扱うこともある。術は使えんが、多様な武器を使いこなす点ではお前に負けるつもりはない」
「くっ…」
剣伎ではシェーンコップに負けるつもりはない。しかし斧を始めとした多の武器を自分は使いこなす事は出来ない。先程の行為に言葉を失ったからこそ、ユキトは多様な武器を使いこなすという点ではシェーンコップに劣るということを認めざるを得なかった。
(だが…総合的な実力なら五分五分以上だ!)
しかしその点では負けを認めざるを得ないとはいえ、総合的に自分が劣っているなどとは思っていなかった。自分は術を使える限りシェーンコップに劣るなどということはない。そういう自信がユキトにはあった。
(しかし、ヨーヨー以上の事をしなくては優位にはなれないな。ここはあの術を成功させるしかないか…)
シェーンコップに打ち勝つ方法。それは今まで一度も唱えるのに成功したことのない術を唱えるしかないと、ユキトは思ったのだった。
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襲いかかるモンスターを蹴散らしながら一行は氷湖の奥へと進んでいった。そしてついに氷湖の主の縄張りに辿り着いたのだった。
「さぁて、ここからが本番だ。いよいよ氷湖の主の縄張りに突入した。今までのは前哨戦に過ぎん。皆兜の緒を締める気持ちで取りかかれ!」
シェーンコップは皆に気を引き締めるよう戒めた。その言葉に一行は一斉に心を静め、いつ現れるか分からぬ敵に備え始めた。
「ガキガキガキガキガキ!」
そんな一行を待ち構えていたと言わんばかりに、氷を砕きながら巨大な物体が迫り来る!
「来たぞ!氷湖の主だ!!」
「ザザア!」
「うああ〜」
シェーンコップが敵の出現を示す中、氷湖の主は氷の上にいた薔薇の騎士(ローゼンリッター)の面々を、砕く氷諸共空中高く放り投げた!
空中高く放り投げられた薔薇の騎士の面々は氷の大地へと叩き付けられ、その多くは叩きつけられたショックで気絶してしまった。
「喰らえ!デミルーン!!」
そんな中灘を逃れたユキトは、三日月刀固有技デミルーンで氷湖の主に飛びかかった!
「ガキィン!」
「決まった!」
ユキトの一太刀は氷湖の主の懐に入り、ユキトは勝利を確信した。
「ビュアアア〜〜!!」
「何!?ぐああ〜!」
しかし、その傷口から突如として冷気が発生し、ユキトはその冷気に吹き飛ばされ氷の大地へと叩き付けられた。
「大丈夫か、小僧!」
「ああ、何とかな…。しかし今のは一体なんだ?」
「ああ。奴の身体は常に冷気に覆われていて、近付く者は触れた瞬間その冷気の洗礼を受ける。それだけでなく奴は傷口を身体を覆う冷気で塞ぐことも出来る。生半可な攻撃は奴には通じん」
「下手な物理攻撃は徒に自らを傷付けるだけという事か。これは厄介だな…」
攻防両用の特殊冷気を常に纏っている氷湖の主。数人掛かりで追っ払うのがやっとだというシェーンコップの言を、ユキトは身を持って知ったのだった。
「それで対策は何かあるのか?」
「まあ、黙って俺の行動を見ているがいい、小僧」
「どうやら対策があるようだな。まあ、お手並み拝見といくか」
未だ自分を小僧としか呼ばないシェーンコップの態度をユキトは快く思わなかったが、とりあえずシェーンコップの出方を見ることにした。
「ガキガキガキガキガキ!」
再び氷を砕き一行を攻撃しようと湖の中から氷湖の主が姿を現わした!
「今だ!」
その一瞬をシェーンコップは見逃さなかった。シェーンコップは腰の袋から赤色の石を取り出し、そして氷湖の主へと投げ付けた!
「ゴアアアアア〜!」
氷湖の主にぶつかった石は砕け、そして炎を発した。その炎の勢いにより氷湖の主を覆う冷気は相殺された。
(何!?今のは火星の砂…?)
シェーンコップが投げ付けた石に、ユキトは驚きを隠せなかった。
火星の砂、それはエル=ファシル周辺の砂漠地帯からしか採取されない可燃性の高い砂を、石として固めた武器である。
しかし火星の砂はユキトがエル=ファシルにいた時期では試作段階の物しか存在せず、実用段階には至っていなかった。また、火星の砂は試作段階故秘匿され、火星の砂の製作者以下ユキトの様に王族と親しい一部の者しかその存在を知らなかった。
エル=ファシルが滅亡した今となっては、火星の砂を作る技術は失われたも同然な筈。生き延びた製作者が独自に完成させたのか、それとも神王教団に捕われた製作者が教団に作らされたのか。ユキトの疑問は尽きることがなかった。
「よし!全軍弓を持て!!」
シェーンコップの一言により、行動可能な薔薇の騎士の面々は一斉に弓を構えた。
「全軍射て!アローストーム!!」
シェーンコップの掛声と同時に、薔薇の騎士の面々は一斉に矢を放った。その絶え間ない攻撃に、氷湖の主は無数の矢を身体に受けながら湖に潜り込んだのだった。
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「よし。もう上がって来んな。全軍撤収だ!」
辺りに沈黙が続きもう氷湖の主は上がって来ないだろうと判断したシェーンコップは、全員に撤収を呼びかけた。
「見事な連携プレーだ。ところでさっき投げた石はどこで手に入れた?」
ユキトは薔薇の騎士の連携プレーを称賛すると共に、シェーンコップに火星の砂を何処で手に入れたかを訊ねた。
「あの石か?あの石はモウゼスの…」
「ガキガキガキガキガキ!」
その時、これ以上立ち向かって来ないと思われた氷湖の主が三度襲いかかって来た!
「ちいっ。いつもならばこれで決着が着いていた所だが、今回は奴もそう簡単には逃げ帰らんか!」
「ビュアアア〜〜!!」
水面から姿を現わした氷湖の主は、内に秘めた怒りを発散するかの如く体内から強烈な冷気を放った!
「うわわ〜」
その強烈な冷気に殆どの者は吹き飛ばされた。
「シェーンコップ、大丈夫か!」
「お前に呼び捨てされる筋合いはないぞ小僧…」
シェーンコップの安否を気遣い、ユキトは声をかけた。シェーンコップは先程の攻撃によりダメージは負ったものの、致命傷には至っていなかった。
「しかしマズイな…。今の攻撃で火星の砂にも冷気が浴びさせられてしまった。折角相手が致命傷を負っているというのに、これでは決定的なダメージを与えられんな」
「だが、完全に使えなくなった訳ではないだろ?」
「ああ。威力は大分落ちるが使えん事はない」
「そうか。なら何とかなるな…」
そう言い終えると、ユキトは術の詠唱を始めようとした。
(この術、果たして成功させられるか…。いや成功させて見せる…)
これから発動させようとしている術は、今まで一度も成功したことのない術だった。だが、現状で勝利を得る為にはその術の発動を成功させるしかないと迷いを絶ち切り、ユキトは術の詠唱に専念した。
「風よ、我の元に集い全てを吹き飛ばす竜巻となれ!トルネード!!」
蒼龍術トルネード。蒼龍術の中では上位に位置する術であり、トルネードの二つ名を持つユキトであったが、この術を成功させた事は今まで一度もなかった。
しかし、迷いや悩みを絶ち切り極限にまで集中力を高めたユキトは、トルネードの詠唱に見事成功したのだった。
「ゴアアアアア〜〜!!」
ユキトの前に作られた巨大な竜巻は辺りの氷を巻き上げながら氷湖の主に向かって行った!その風は巨体を為す氷湖の主でさえ空に巻き上げんばかりの勢いであった。
「今だシェーンコップ!火星の砂を奴に投げるんだ!!」
「お前に言われるまでもない!」
氷湖の主を中心に巻き起こる竜巻の中にシェーンコップは火星の砂を投げ込んだ!
「ゴオオオオ〜〜!」
火星の砂自体は大幅に威力を削られていたが、トルネードと合わさることにより炎の威力は十二分に発揮された。そして氷湖の主は炎の竜巻に身を焼かれ、湖に沈んで行ったのだった。
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「皆、今日はご苦労だった!さあ、遠慮せずどんどん飲め!」
無事氷湖の主を追いやった薔薇の騎士は、本部に帰るとすぐ祝勝会の準備を始めた。
シェーンコップの挨拶で宴会が始まる中、会場にはユキトとジュンの姿もあった。
「しっかし、ユキトは流石だよな。俺なんか全然活躍出来なかったし…」
宴会の場でジュンは酒を飲みながらユキトに愚痴をこぼしていた。ジュン自身それなりにモンスターは倒せたが、氷湖の主を追い払ったユキトの活躍の前には霞むものだった。
「愚痴るな。横目で見ていたが将来性のある太刀筋はしていたぞ」
「そうか?ユキトにそう言ってもらえると嬉しいぜ〜」
(さてと…)
勢いに乗って飲んでいるジュンの元から一時離れ、ユキトはシェーンコップの元へと向かった。
「ん?何か用かトルネード」
「ようやく俺を小僧扱いしなくなったか」
「まあな。あの活躍を見れば小僧呼ばわりするのも失礼だろう」
「そうかい。ところで勝負の件は…まあいいか…」
氷湖の主との激戦を終えたユキトは、当初のシェーンコップとの勝負は関心事ではなくなっていた。
シェーンコップの強さは氷湖での戦いで充分窺い知れたし、どちらが強いかというのにも別に興味が湧かなくなった。今はシェーンコップが自分の強さを認めてくれるだけで充分だと思った。
「それはそうと、一つ訊ねたい事がある。あの火星の砂はどこで手に入れたんだ?」
話を切り替え、ユキトはシェーンコップに火星の砂の入手所を訊ねた。
「ああ、あれか。あれはモウゼスのボルカノという男から貰い受けた。腕の立つ朱鳥術使いで、その力を使ってあの砂を製造しているらしい」
「モウゼスのボルカノ?聞かない名前だな。それにモウゼスと言えば、有名なのは玄武術使いのハルコじゃないか?」
「ああ。世間一般ではモウゼスの術使いと言えばハルコだ。風の噂だとボルカノという男は数年前からモウゼスに住み着き、朱鳥術の研究を始めたらしい。その行動にハルコは営業妨害だと何度もボルカノと喧嘩沙汰になったが、両者とも互角の強さでなかなか勝負が付かず膠着状態になっているという話だ」
(モウゼスのボルカノか…。一度会ってみるか…)
ランスに向かった後次にどこに向かうか決めていなかったユキトであったが、ボルカノという人物に興味が湧き、ランスの次にモウゼスに向かうことを決心したのであった。
「ところで、お前さんの剣は見た所刃こぼれが酷いようだな」
「ああ。氷湖の主を剣で斬り付けた時大分やられた。まあ、最も長年愛用した剣だから限界が来ても不思議ではないんだが」
「そうか。ちょっと待ってろ」
そう言い残すとシェーンコップは座を立ち、暫くすると剣を持ってユキトの前に現れた。
「この剣は?」
「曲刀のファルシオンだ。三日月刀よりは切れ味が増すだろう」
「ひょっとしてこれを俺にくれるのか?」
「ああ。お前の協力がなかったら氷湖の主は追っ払えなかったからな。これは俺なりのお前に対する礼だ」
「あり難くいただいておく。それに言い忘れたがトルネードというのは俺の仮の名だ。俺の本当の名はユキトだ」
「ユキトか。覚えておこう」
こうしてユキトはシェーンコップから新たな武器を授かり、気分も新たに当初からの目的地であるランスに向かって行ったのだった。
…To Be Continued |
※後書き
ここ数ヶ月、月一話更新が続いておりますね…(苦笑)。
前回があまりバトルシーンがなかったのに対し、今回はバトル中心ですね。序盤以降中ボス戦らしい中ボス戦もなく、ようやく中ボスが出て来た所です。もっとも四魔貴族も中ボスといえば中ボスなので、中の下の中ボスという感じですが。
さて、またもや名前だけ先行ですが、晴子さんの登場です。ギャグ的キャラクターながらも世界最強クラスの玄武術使いと、秋子さんに勝るとも劣らない役柄です(笑)。それとボルカノ。こちらはまだ名前は明かしておりませんが、「AIR」原作で晴子さんとある意味対立関係にある某方とだけ言っておきましょう。詳細は後程ということで。
しかし、相変わらず北川の活躍が少ないですね。ヒイロよりドモンの方が好きなのですが(笑)、どうも往人の方を活躍させてしまいますね。「俺なんか全然活躍出来なかった」という北川の愚痴は色んな意味で言葉通りです(爆)。
往人と一緒にいるとどうも活躍しなさそうなので、いずれ北川と往人は別行動を取るでしょうね。 |
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